金属材料には実に様々な種類があります。
今回は主な鉄鋼材の簡単な説明と記号の見方についてまとめてみます。
・鉄鋼記号の見方 (JISより抜粋)
(1)は,英語又はローマ字の頭文字,もしくは元素記号を用いて材質を表しているので,鉄鋼材料は,S(Steel:鋼)またはF(Ferrum:鉄)の記号ではじまるものが大部分である。
例 外 SiMn (シリコンマンガン), MCr (金属クロム)などの合金鉄類
(2)は,英語又はローマ字の頭文字を使って板・棒・菅・線・鋳造品などの製品の形状別の種類や用途を表した記号を組合せて製品名を表しているので,S又はFの次に来る記号は,次のようにグループを表す記号が付くものが多い。
P:Plate (薄板) U:Use (特殊用途) W:Wire (線材,線)
T:Tube (菅) C:Casting (鋳物)
K:Kōgu (工具) F:Forging (鍛造)
例 外 Ⅰ) 構造用合金鋼のグループ(たとえばニッケルクロム鋼)はSNCのように添加元素の符号をつける。
Ⅱ)普通鋼鋼材のうち棒鋼,厚板(たとえばボイラ用鋼材)はSBのように用途を表す英語の頭文字をつける。
(3)は,材料の種類番号の数字,最低引張強さ又は耐力(通常3けた数字)を表している。ただし機械構造用鋼の場合は主要合金元素量コードと炭素量との組合せで表している。
例 1 : 1種 A : A種又はA号 430 : コード4.炭素量の代表値30
2A : 2種Aグレード 400 : 引張強さ又は耐力
ここからは主な鉄鋼素材の記号を具体的に深掘りしていきます。
・一般構造用圧延鋼材
「橋梁、船舶、車両その他の構造物に用いる一般構造用の熱間圧延鋼材」(JISより引用)です。
歩留まりが良く、汎用性、(特にSS400の)流通性が高く、安価で最も一般的な鉄鋼材料の一つです。
JISで化学成分の規定がほとんどなく(炭素、マンガン、硫黄、リンの上限値のみ)、主として引っ張り強さと耐力を規定されている素材となります。規定、保証はありませんが、炭素量は一般的に0.15~0.20%とされていて、低炭素鋼に分類されます。そのため、熱処理で硬さを高めることができません。
また、化学成分の規定がほぼなく、素材にかなりのばらつきが出るため、硬さの規定がありません。
鋼板、鋼帯、形鋼、平鋼及び棒鋼の形状が存在し、材料メーカーによって様々な寸法の材料が製造されています。
JIS規格では、SS330、SS400、SS490、SS540の4品種が規定されています。
適用規格:JIS G 3101:2015
・自動車構造用熱間圧延鋼板及び鋼帯
「主に自動車、電気機器、建築材料などに用いる加工性の良い構造用の熱間圧延鋼板及び熱間圧延鋼帯」(JISより引用)です。
強度とプレス加工性を併せ持ちます。
JISでの化学成分の規定は硫黄とリンの上限値のみ規定されています。上述「一般構造用圧延鋼材」同様、主として引っ張り強さと耐力を規定されている素材となります。
プレス用の材料で厚みは1.6~14mm。当社で調達し、切削加工を行った実績があります。
JIS規格では、SAPH310、SAPH370、SAPH400、SAPH440の4品種が規定されています。
適用規格:JIS G 3113:2018
・高炭素クロム軸受鋼鋼材
「転がり軸受に使用する高炭素クロム軸受鋼鋼材」(JISより引用)です。
耐摩耗性が高い鋼種であり、軸受鋼という名称が示す通り、主として軸受に用いられます。
SUJ2において、球状化焼きなまし(流通している切削前の素材状態)硬さはHB201以下,HRB94以下,HV218以下(≒HRC14以下)と規定されていますが、焼入焼戻しをすることでHB654(HRC60)程度の硬さが出ます。
軸受用の材料のため丸材(線材と丸鋼)であり、φ5.5~φ160が標準径となります。
JIS規格では、SUJ2、SUJ3、SUJ4、SUJ5の5品種が規定されています。
適用規格:JIS G 4805:2019
・熱/冷間圧延軟鋼及び鋼帯
「一般用及び加工用の熱間圧延軟鋼板及び熱間圧延軟鋼帯」、「幅30mm以上の冷間圧延鋼板及び冷間圧延鋼帯」(JISより引用)です。
鉄系の板金素材でSPHCとSPCCは最もポピュラーな素材と言えるでしょう。
一般(板金)、絞り、深絞り、非持効性絞り、非持効性深絞り用の鋼板及び鋼帯であり、厚さは1.2~14mm(SPHC)、0.10~3.2(SPCC)となります。
JIS規格では、SPHC、SPHD、SPHE、SPHF、SPCC、SPCD、SPCE、SPCF、SPCG、SPCCTの計10品種が規定されています。
適用規格:JIS G 3131:2018 , JIS G 3141:2017
・機械構造用炭素鋼鋼材
「熱間圧延、熱間鍛造及び熱間押出によって製造する機械構造用炭素鋼鋼材」(JISより引用)です。
一般にSC材(S-C材とも)と呼ばれ、鉄鋼材ではSS400に次いで多く使用されています。代表的な鋼種はS45C及びS50Cです。Cは炭素、数字は炭素含有量を表します。低炭素鋼のSS400と違って、S45C及びS50Cは中炭素鋼に分類され、焼入れが可能なため、より強度が必要な部品に使用されます。
JISでの化学成分の規定はSS材が4種類の元素しかないのに対し、SC材は9種類の元素の規定があり、特に有害物質である硫黄とリンの上限値がSS材よりも厳しく設定されているため、SS材よりは高価になるようです。(いずれの鋼種も基本的に炭素以外の元素の規定は全て同じですが、はだ焼用鋼*S09CK,S15CK,S20CKのみ上限値が厳しく設定されています。)
丸鋼、角鋼、六角鋼、線材、平鋼、鋼板と様々な形状、サイズの素材が存在する。
JIS規格では、S10C、S35C、S45C、S50C、S75C、S09CK、S20CKなど27品種が規定されています。
*はだ焼用鋼…低炭素鋼及び低炭素合金鋼で主として浸炭焼入れによって表面硬化させる鋼。
適用規格:JIS G 4051:2016
・機械構造用合金鋼鋼材
「熱間圧延、熱間鍛造及び熱間押出によって製造する機械構造用合金鋼鋼材」(JISより引用)です。
末尾につく「H」は焼入性を保証していることを示し、つまり定められた熱処理を行えば内部まで一定の硬さが入ることを保証できる材料となります。通称「H鋼」と呼ばれます。化学成分については、はだ焼用鋼(SCM)より焼入性保証鋼(SCM H)の方が規格範囲を多めに取っています。
JIS規格では、SMn420、SMnC443、SCr420、SCM435、SNC631、SNCM439、SACM645など40品種が規定されています。
適用規格:JIS G 4053:2018
・冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯
「冷間圧延ステンレス鋼板及び冷間圧延ステンレス鋼帯」(JISより引用)です。
製造業一般でSUS=「サス」と呼ばれる、ステンレスです。
板では0.3~20mm、帯では0.3~6.0mmが標準寸法となります。
JISでは、SUS301,SUS303,SUS616など(オーステナイト系),SUS329J1,SUS329J4Lなど(オーステナイト・フェライト系),SUS430,SUSXM27など(フェライト系)、SUS403,SUS440Aなど(マルテンサイト系)、SUS630,SUS631(析出硬化系)など62品種が規定されています。
適用規格:JIS G 4035:2015
・炭素鋼とは
鉄と炭素の合金で炭素含有率が、通常0.02~約2%の範囲の鋼。少量のけい素、マンガン、リン、硫黄などを含むのが普通です。便宜上、炭素含有量によって、炭素鋼は次のように分類されます。
炭素含有量による分類:低炭素鋼(0.25%以下)、中炭素鋼(0.25~0.6%)、高炭素鋼(0.6%以上)
※広く使用される低炭素鋼と中炭素鋼を合わせて普通鋼とも呼ばれます。
一般に炭素含有量0.6%以下の普通鋼は構造用鋼として使用し、焼入れで特に硬さを高められる、0.6%以上の高炭素鋼は工具用鋼として使用されます。
また、硬さ(強度も含まれる。)によって次のようにも分類される場合があります。
硬さによる分類:極軟鋼(0.15%以下)、軟鋼(0.15~0.3%)、硬鋼(0.3%以上)
※更に細かく分類する文献がありますが、ここでは割愛します。
※カッコ内に基準となる数値を記載していますが、JISでは具体的な分類の基準数値は規定されておらず、文献等によりその数値は異なっているため、あくまで一般認識での数値となります。
・炭素含有量による鋼の種別分類
JISでは鉄を炭素含有量によって、純鉄、鋼鉄、鋳鉄の三つに分類しています。
適用規格:JIS G 0203:2009
・JIS 規格番号
JISの後に付くアルファベットは部門記号を表し、「G」は鉄鋼部門の記号を表します。
私たち製造業に関りが深い部門記号としては、「H(非鉄金属)」があります。
JISでは全ての金属材料を上記二種類に分けて規格しています。
現在、10,000以上のJIS規格が発行されています。
・最後に
日頃の業務で様々な材料を取り扱うので、嫌でも調べる必要に駆られ、知識を得る中で、段々と材料のことが好きになってきました。記号に法則、意味があるのは知っていましたが、今回JISをよく読んで自分の中に落とし込んだものを少しでも皆様のお役に立てられればと思い、記事を認めました。
作成する中でいろいろなサイトも確認したのですが、誤っている記載が散見されたため、基本的にJISを基準として丁寧に完成させました。
(執筆 生沼)